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  • 黒木慕楠少佐『戲曲』、其の一。

  • 投稿者:備中處士
  • 投稿日:2009年 8月21日(金)20時49分25秒
  • 編集済
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●黒木慕楠少佐『戲曲・大楠公(假題)』(脚本・全五幕。昭和十九年四月。少佐、天長節に於て部下に實演せしめんとして果たさず)に曰く、「

   第一場『中興の曙』
所は水分。楠公の館の一室。兄・正成と、正季、正對す。
時、元弘元年夏葉月

正季「兄上樣、昨夜は眞に不思議なる夢を見ましたるぞ。」
正成「如何樣に。」
正季「されば兄上、申すも畏き事ながら、遙か笠置の山上に、錦旗、獨りなびかず。麓には、六波羅の賊共、猛り居りますれば、最早や、たまらず、一氣につはもの共を引きつれ仕り討つて出でますれば、遙かに主上、畏くもお喜びあり、軍勢、勇みに勇みて、一息に六波羅勢を十津川の流れに追ひ落し、更に京都に出でますれば、まだ戰塵の煙、血なまぐさくは御座りましたが、既に諸親王樣を始め奉り、菊池・櫻山公も、又た近畿の諸將、參集仕りて、京も古に立ちかへり、されば京の天下喜びて、御還幸を迎へ奉りまして御座ります。」
正成「ふむ、して。」
正季「それより諸軍、轡を列べて關東に上りますれば、彦根に五辻の宮樣、美濃には土岐多治見の一族等、愈々盛え申し、箱根の一戰に見ン事、關東勢を討破りて、高時奴、遂に館に火をかけて相果てゝ御座居ます。」
正成「ふむ、左樣か。」
正季「ハツ。」
正成「されば、そは御主の心か。」
正季「ハツ。」
正成「さては、御主にも似ぬ。」
正季「何故で御座ります。」
正成「ウームー、さてものう。」
  「正季、御主、勅諚なくして、私に兵を動かしてよきものかのう。」
正季「私では御座りませぬ。天下此の時、一刻も御猶豫御座りませぬ。匆々に兄上、御出馬然るべしと存じ申す。」
正成「いやさ、正季、全く布衣無冠、朝廷に聞えざる者にてあれば、さもありなんが、畏れ多くも此の楠は、既に正中討幕の時より、上聞に達せしもの、その後も又た藤房朝臣等により、呉々もはかられたるいはれ。」
正季「さればこそ、此の機に於て。」
正成「いやさ、此の機なればこそ、斯かること、愼重に致すのぢや。正季、兵は天下の大事、武は天子の大權で御座らう。されば斯かる最後の際に臨みてこそ、君臣の義、大義の道を明かに致すことこそ、大切なのぢや。此の兄が憂ふるは、後世、亂臣賊子の、虚名の兵を用ひ、輕薄血氣の士の、國をあやまらん事を恐るゝのぢや。凡そ君につくすには、深く遠く萬世に範たるの道を慮ることが、最も肝要ぢや。」
正季「御説、もつともで御座りますが、何とも此の機に及び申しては。」
正成「慮外な。正季よ、凡そ今朝一夕の大變は、左程恐れ憂ふるには足らぬ事ぞ。一身の小節、一時の血氣は、匹夫さへ能く致す。實に心あらば、考ふべきは萬世の道ぢや。さもなくば、今日事ならでも、明日又た憂ふべき事ばかりで御座らう。」
正季「ハハツ。」
正成「されども、のう、正季、吾は間もなく御使が參らうと思ふがのう。」
正季「ハツ。左樣に。」
正成「さればこの度、天下の事、容易の趣にあらざれば、和子等に一言、申し置かんと思ふが。」
正季「眞に、早速お呼び申しませう。」
正成「ウム。奧ものう。」
正季「ハツ。では。」

――立ちて出で、正行・阿久の方、入り來る。
阿久「お呼びで御座りますか。」
正成「ウム、正行。此の度は和子も聞き及び居るやう、天子樣大變の御難儀であらせらるゝ。ついては父も近々出陣仕るであらうが、如何やうのことに相成らんとも知れざるにより、一言、申し置かんと思ふ。和子は幼き故、奧、其の方、よくゝゝ聞き置かれい。」
阿久「ハイ。」
正成「そもゝゝ此の度のことは、兼々申すやう、一朝一夕の出來事ではなく、遠く後鳥羽上皇の討幕の御企てより考へ奉らねばならぬ。上皇は、我が國が神國なることを、強く心にとゞめさせられ、ひとへに大日本を、正しき姿、正しい心、正しい政にかへさんとあそばされたのぢや。我が國の正しい姿とは、今より千九百九十一年前、神武天皇が始めて御位におつき遊ばされたのではあるが、それよりも遠くはるかの古に、伊弉諾・伊弉册二柱の神がおはしまして、此の二柱の神が、人も草もお産み遊ばされ、又お治め遊ばされたのぢや。その中でも御徳の高き天照大神さまが、次いでお治めになり、これより天照大神さまの御子孫が、代々お治め遊ばされて、今日の御天子樣に及び申して居るのぢや。さればお天子樣には、限りなき代々の御恩のあると共に、又た實は御本家にあらせられ、吾々民草の大父君にあらせらるゝわけぢやのう。」
正行「ハイ。」
正成「それを分家が、子が、父君の上に立つと言ふ事では、分をこえてをり、無道である。道のない世の中は、必ず秩序なく亂れること、必定である。されば後鳥羽上皇は、御祖先に申し譯なきのみか、民が無道の世に苦しむをおなげき遊ばされて、古の正しき秩序ある正しき姿にかへさんと思召されたのぢや。」
正行「ハイ。」
正成「わかるのう。正しき心とは、日本の國柄が、かやうである以上、民草は、唯々天子さまを尊び、父上を尊び、兄者を尊び奉ることぢや。されば萬一の事ありても、臣は君の爲に死し、子は父の爲に死して、斷じて御護り申し、天子樣の危きこと、世の亂れることはあらぬのぢや。此の心が、即ち正しき心ぢや。國の基ぢや。」
正行「ハイ。」
正成「ウム。して、正しき政とは。」

――從者、入り來る。
從者「申し上げまする。只今、萬里小路中納言藤房卿、弉々にお見えで御座りまする。」
――正成、座を正す。
正成「左樣か、粗相のなきやう、お通し申せ。」
從者「ハツ。」
――從者、退く。
正成「奧、しばらく退き居るやう。ついて正季殿に、至急、參られるやうにのう。」
阿久「ハイ。」
――正行・阿久の方、退く。從者、來る。
從者「伴ひて參りまする。」
――藤房・快元坊、入る。正成、下座に下る。
藤房「御免。弉々の急用御座りて、まかり申した。」
正成「それはゝゝゝ御苦勞に存じまする。謹みて御用承り申しまする。」
――正季、入り、正成の下座に坐す。
藤房「さればぢや、正成公。」
  「愈々御主にお召しでござりまするぞ。」
正成「ハハツ。」
――二人、平伏す。
――幕。



 以下、五幕まであります。少佐には、歌あり、詩あり、又た漢詩・漢文も作り、戲曲にも手を染められてをられます。
 少佐、逝きて六十六年、此の幻の戲曲、靖國神社にて奉納する一座は無きものか‥‥。


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