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  • 淺野晃翁『天と海――英靈に捧げる七十二章』。

  • 投稿者:備中處士
  • 投稿日:2009年 8月 3日(月)18時59分0秒
  • 編集済
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●野乃宮紀子氏「三島由紀夫と淺野晃」(至文堂『國文學・解釋と鑑賞』平成十二年十一月號)
http://c-faculty.chuo-u.ac.jp/~houki/bungaku/asano/asano.htm
に曰く、「

 昭和四十年三月、淺野晃は、詩集『天と海――英靈に捧げる七十二章』を出版する。これは、副題が示す如く、太平洋戰爭(愚案、大東亞戰爭)で亡くなつた人々(もちろん身近な人をも含んでゐる)に捧げた鎭魂歌である。戰後二十年といふ區切りの年でもあり、この詩集を世に贈り得たことは、淺野晃にとつて感慨深いものがあつただらうと思はれる。

 責務の詩人淺野晃に、三島由紀夫は心服したであらう。同時に自分の責務の在り方についても思ひを馳せたに違ひない。優れたものに心を留め、認めることのできた三島である。昭和四十二年五月、『天と海』は、三島由紀夫の朗讀、山本直純の音樂といふ組み合はせでレコード化される。甘やかで誠實さを感じさせる三島由紀夫の聲であるが、このときの三島の文章も音樂的である」と。



●三島由紀夫氏「『天と海』について」(初出・『天と海』レコードジヤケツト・タクト電機・昭和四十二年五月・四月にレコード吹込み)に曰く、「

 『天と海』は、抒情詩であると共に敍事詩であり、一人の詩人の作品であると共に國民的作品であり、近代詩であると共に萬葉集にただちにつながる古典詩であり、その感動の巨大さ、慟哭の深さは、ギリシヤ悲劇、たとへば、アイスキユロスの「ペルシア人」に匹敵する。この七十二章を讀み返すごとに、私の胸には、大洋のやうな感動が迫り、國が敗れたことの痛恨と悲しみがひたひたと寄せてくる。淺野晃氏は、日本の詩人としての最大の「責務」を果たしたのである。

 それを私が朗讀するとは身の程知らずであるが、この詩に感動した者の一人としての立場から、いはば作者と讀者の相聞といふ形で、ただ心をこめて朗讀するのみである。この詩の偉大さの前には、末梢的な技巧は、何ら用をなさぬと思ふ。事實、マイクに向かつて朗讀しつつ、第六十六章「アジアの岸の歌」や第六十八章「ミンドロの岬から‥‥」などにいたると、澎湃たる浪曼的感動が胸に溢れ、自分の身がこれらの詩句によつて天空へ引き上げられて、はるか南溟の島々を瞰下ろし、潮鳴りのあひだに呼び交はす英靈たちの聲を、この耳に聽いたやうな氣がしたのである。もつともこれは私の主觀的感動であつて、出來上つた朗讀そのものが、人にどれだけの感動を與へるかについては、そこに自ら技術の問題が入つてくることを、私は知らぬではない。朗讀者としての私には、感動はあるが技術はない。ただ、この詩作品自らをして語らせるお手助けをするだけである。しかし、あくまでもこの作品は、技術があつて感動のない人によつては朗讀されるべきではないと思ふ。‥‥私はこの新しい試みが、『天と海』の感動をより廣汎な人々の心にしみ入らせる一助ともなれば、と望んでゐる」と。



●淺野晃翁『天と海――英靈に捧げる七十二章』(昭和四十年四月・翼書院刊)より、第九章・第六十六章から第七十二章


明けがたの海の
ほの白い渚をゆく
海は ただ
青く 遠い
世の人の永訣の時を
いまこの時と
何が決めるのか
けれど
海にはおもいいとなみがある
星には彼の光度がある
人には責務がある
われらは みな
責務を愛した また
この國土と
東洋の滿月を
われらは みな
愛した
責務と
永訣の時を

66 アジアの岸の歌
曾て不毛の河邊に
寢ずの番してゐた彼らであつた

天のどんな豫兆をも聞きのがすまいと
全身を耳にしてゐた彼らであつた

影に充ちた夜であつた
草はやはらかく幼な子のやうに
眠つてゐた
君たちもどこか草のやうに幼な子めいて
見えてゐた

滿天の星は身をふるはせて
縛された女性を凝視してゐた
アジアといふ名の漠たる女性は
漠たる永い夜に縛されてゐた

あの刻 彼らの耳は
何をきいたのか

さかしらな人間があやつる舞臺が音をたてて
廻つただけなのか けれど
そんなことが 君らの願ひと
何のかかはりがある

君たちは裝ひを改めた
爭つて祖國の急に赴いた

花のやうな羞ぢらひの中に
五月の夜よりもかぐはしく

やさしい思ひ出とも別れ
答へなき天に
おのれの影を投げながら

ひとり世を超え
おそれもなく
ためらひもなく

意味ありげなものの虚妄を
惡しく意味づけられたものの虚妄を
はげしく拒み また拒み

人みなが冷たしと見る
アジアの岸の夜明け前に
虚妄の意味を燒けつくし
おのれひとつの焰と燃えて

おそれもなく
ためらひもなく
花のやうな羞ぢらひの中に
五月の夜よりもかぐはしく

聖なる戰の眞實を
おのれひとつに證(あか)しして
闇の汐に呑まれていつた

君ら 運命を超えて逝つたものよ
いまこそ 魂を鎭めるとき

67
われらが盡きぬ夏の日は
青い海が白い船を逝かせ
渚に光あふれ
瞳燃え
いかにながい別離が
われらを捉へ
はるかな夜にさまよはせようとも
いつもここで
わたくしらは出會ふ
生きるかぎり
のちの世までも

68
ミンドロの岬から
シブヤンの水道から
スリガオの海峡から
デナガツトの海から
ミンダナオの海から
サン・ベルナルデイノの迫門(せと)から
バラワンの島から
スルアンの島から
エンガノの沖から
サマールの沖から
レイテの沖から
サイパンの島から
テニヤンの島から
グアムの島から
アンガウルの海から
ハルマヘラの海から
パラオの島から
ヤツプの島から
トラツクの島から
ルオツトの島から
クエゼリンの島から
タラワの島から
マキンの島から
ペリリユーの沖から
モロタイの沖から
ビアクの島から
ニユーギニアの岸から
ブーゲンヴイルの島から
ソロモンの海域から
ツラギの島から
ガダルカナルの島から
ルンガの泊地から
ミツドウエイの海から
アツツの島から
歸つて來い
歸つて來い
歸つて來い

69
赤道の秋
ひややかにうねりを返す浪の背に
祖國の聲が 青い天から
呼んでゐる
捧げた君らの
尊い名を

70
靜謐で清淨な空間を充たす
無盡の光
このひたすらな挺身者
時は いま 重い足どりで
歩いてゐる
僞りの歴史を
じつくりと溶かすべく

71
すべては逝く
知つてゐたその人も逝く
録されたすべては亡びる
けれど記憶は殘る
けれど天は忘れない
すこやかにありし日のまま

72
死を超えて
なほも多くの日付がある


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