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阿部國治翁『新釋古事記傳』全七卷

 投稿者:備中處士  投稿日:2017年 2月18日(土)23時04分27秒
  通報 返信・引用 編集済
  ■橘曙覽大人の哥

神々に 一人おくれて 負ひ給ふ 袋にこもる 千の幸はひ



 最近、Twitterにて、何方かが、阿部國治翁『新釋古事記傳』全七卷を紹介してをられ、今、あらためて確認しようとしたが、當該呟きが見當らぬ。然し大いに氣になり、思ひ切つて購入した。御紹介の御方に、深く感謝したい。冗長な所が些か氣にはかゝるものゝ──驚いた、平明なる文章と見事なる解釋。眞の名著として、大人にも子共にも、強く推奬する。早速、我が愚なる妻子にも讀ませたい。

 「私(阿部國治翁)は、筧克彦先生によつて、魂の目を開いていたゞきました。そしてまた『古事記』の味はひ方に、本道のあることを悟らせていたゞきました。それ以來、いつもゝゝゝ『古事記』と取り組んでをります。『古事記』を味はひながら、あるときは泣き、あるときは喜びつゝ、日常生活の指導原理を、全部『古事記』の中から汲み取つてをります。いはゞ『古事記』は、汲んでも汲んでも汲みきれることのない泉のやうな、『たましひ』の糧なのであります」と。此のやうな御本は、ハード本では無く、是非とも文庫化して、『古事記』入門の契機としてもらひたい。



●阿部國治翁著・栗山要氏編『新釋古事記傳』全七卷(平成二十六年四月・致知出版社刊)

○阿部國治翁の書(昭和十三年三月三十日筆)

切散八俣遠呂智──切り散(はな)つ、八俣遠呂智
負帒爲從者率往──袋を負(しよ)ひ、從者(ともびと)と爲りて率往(ゐき)き

○栗山要氏の解説

 意譯すれば、「八俣遠呂智(八岐大蛇)を遠ざけて、袋を背負ひ、從者となつて、人生を歩いていかう」といふことにならうか。

 『日本書紀』には、八岐大蛇について、「頭と尾が、それぞれ八つあり、眼は赤酸奬(あかほおずき)のやうである。松や柏が背中に生へ、八つの山・八つの谷の間いつぱいに廣がつてゐた」と書いてある。そして前後の記事から推察すると、「若い女と酒が大好きだつた」やうである。言つてみれば、周圍を睥睨する權力者の象徴であらう。「その八俣遠呂智のやうな權力者の生き方と決別して、大國主命のやうに、袋を背負つて、世の中の下積みになるやうな仕事をしていかう」といふのが、筆者の決意だつたに違ひない。

 事實、筆者は、東京帝國大學法學部英法科首席卒業といふ榮光を擲ち、疲弊にあへぐ農民救濟のために、地下足袋を履いて、全國の村々を歩いてゐる。そのまゝ進めば、東京帝國大學法學部教授、官界に入れば、高級官僚への道が約束されてゐたであらう人生を、自ら拒否して、『袋背負ひの心』に徹したのである。
 
 
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