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御讓位の濫觴。

 投稿者:備中處士  投稿日:2016年10月 3日(月)23時30分35秒
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  ■『日本書紀』

 伊弉諾尊、神功、既に畢へたまひて、靈運當遷。是を以て幽宮を淡路之洲に構り、寂然かに長く隱りましき。亦た曰く、伊弉諾尊、功、既に至りぬ。徳、亦た大きなり。是に天に登りまして、報命したまふ。仍りて日之少宮に留り宅みましぬ。‥‥



■『古事記』

 天照大御神、高木神の命以ちて、太子正勝吾勝勝速日天忍穗耳命に詔りたまはく、「今、葦原中國、平け訖へぬ、と白す。故れ言依さし賜へりし隨に、降り坐して知看せ」とのりたまひき。爾に其の太子正勝吾勝勝速日天忍穗耳命の答白したまはく、「僕は降りなむと裝束せし間に、子、生れましつ。名は、天邇岐志國邇岐志天津日高日子番能邇邇藝命、此の子を降すべし」とまをしたまひき。



●伊藤博文公『皇室典範義解』

 恭みて按ずるに、皇室の典範あるは、益々其の基礎を鞏固にし、尊嚴を無窮に維持するに於て、缺くべからざるの憲章なり。‥‥將來、已むを得ざるの必要に由り、其の條章を更定することあるも、亦た帝國議會の協贊を經るを要せざるなり。蓋し皇室の家法は、祖宗に承け、子孫に傳ふ。既に君主の任意に制作する所に非ず。又た臣民の敢て干渉する所に非ざるなり。‥‥

第六十二條。將來、此の典範の條項を改正し、又は増補すべきの必要あるに當りては、皇族會議及び樞密顧問に諮詢して、之を敕定すべし。

 恭みて按ずるに、皇室典範は、天皇、立憲を經始したまへる制作の一として、永遠に傳へ、皇室の寶典なり。本條、其の紛更を愼しむの意を致すなり。抑々憲法に據るに、其の條項に改正を要することあるときは、之を議會の議に付し、特に鄭重なる方式に依り議決せしむ。而して皇室典範に於ては、獨り皇族會議と樞密顧問に諮詢するに止まり、憲法と同一の軌轍に依らざるは、何ぞや。蓋し皇室の事は、皇室、自ら之を決定すべくして、之を臣民の公議に付すべきに非ざればなり。



 愚、謹みて案ずるに、今の度の玉音放送、天皇陛下には、昭和天皇の攝政時代の御囘想を親しく聞召され、或は香淳皇后の御晩年を經驗され給うた上の叡慮に坐しました(『文藝春秋』平成二十八年十月號)。非理法權天なり。畏し矣。

 皇室典範起草に當つた法制家の柳原前光伯、或は井上梧陰子は、「至尊と雖も人類」として、讓位あるが望ましい(皇室典範原案)と述べ、戰後進駐下に、憲法と皇室典範が變更された時も、貴族院に於いて、南原繁議員(東大教授)と佐々木惣一議員(京大教授)の二人が、讓位を認めるべきだと論じた記録が殘つてゐる(市村眞一博士『平成二十八年の秋に思ふ──陛下の「おことば」を拜聽して』──『日本』平成二十八年十月號)由。

 「御意向は、天皇としてのお務めを長年にわたり、全身全靈をもつて果してこられた御體驗をもとに、日本の神々に最も近き座にをられ、人の上に立たれる天皇のお立場について、熟慮を重ねてこられた御省察によるものと拜される。御高齡ゆゑに、『讓位制適用』の御希望を示唆された今囘の御提起は、事柄の性格上、天皇のお立場にあられるお方にしか出來ないことであつた。‥‥退位して、陛下の御一身が樂になるといふためではない。國にとり、國民にとり、また陛下のあとを歩まれる皇族方にとつて、『高齡天皇の御讓位』といふ對策案が、『最も望ましい天皇御在位の在り方』には、必要不可缺と思はれるが故の、率直な大御心の表明であつた」(大岡弘翁『天皇陛下の「讓位の御意向」に想ふ──今上陛下への讓位制の適用について』──『國民同胞』平成二十八年九月十日)。

 天皇陛下には、畏れ多くも「國民の理解を得られることを、切に願つてゐます」との玉音を下し給へり。國民、之を謹まずんば、何をか謹しむ可き。萬が一、此の御「切願」を奉らざることあらむか、皇國の存在意義は、音を立てゝ崩れ、國民精神は、復び興ることはあるまい。
 
 
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